九州大学病院 薬剤部

薬剤部の特徴

研究活動

クスリはうまく使いこなしてはじめて「薬」になります。せっかくの「薬」も使い方を誤ると副作用ばかりのただの「毒」になってしまいますので、いろいろな道具と同じように、クスリにも上手に使いこなすためのマニュアル(約束)を整備することが大切です。新しく社会に出てくるクスリの多くは、微量で強い効果を発揮するものが少なくありません。つまり、ちょっとしたさじ加減で重い副作用に苛まれる危険性をはらんでいることが想像できます。何百年、何千年もの昔の時代、多くの試行錯誤のくりかえしによって蓄えられてきた「約束」は、先人たちの英知の結晶として現代にも活きています。

病院の中で唯一、薬剤師が主体となる私たちの研究活動は、古くから使われている薬物だけでなく、新しく臨床に登場した薬を含めて、患者さんから得られたデータを集約・吟味し、次の患者さんにとって最も合理的な「約束」を提案するための根拠を積み重ねていくことに象徴されます。しかし、ひとえに研究といってもその扱う範囲はとても広く、誰にも自身が主役となって活躍できる機会があります。

従って、次のような研究のテーマを進めています。

1.薬効・毒性のバイオマーカー探索

生体内に取り込まれた薬物の多くは、主に肝臓や腎臓に分布した後に代謝物または未変化体として胆汁中または尿中へと排泄されます。従って、肝臓や腎臓は薬物をはじめ様々な生体外物質から生体を守る解毒装置として理解されると同時に、濃縮された薬物による有害反応の発現が問題となる臓器と理解されます。私たちは、腎排泄型の薬物や高濃度に腎臓に分布する薬物が引き起こす腎毒性をいち早く、正確に検出することができる尿中の分子生物学的指標(バイオマーカー)を探索し、臨床に役立てることを念頭にした研究に取り組んでいます。

2.薬物毒性の発言機序解明と対策法の確立

薬物による腎障害は、診断や治療のために使用される医薬品により生じる急性腎障害です。私たちは、頻度の高い抗がん薬や抗菌薬等に着目し、分子レベルから動物レベルに至る系統的な検討から、薬物による急性腎障害の発現機序解明や有効な予防策の確立を目指しています。
抗がん薬の中には、副作用として末梢神経障害(しびれ、痛み、過敏症)を引き起こしますが、有効な対策法は未確立です。私たちは、抗がん薬が引き起こす末梢神経障害の評価が可能なモデルラットを作製し、その引き起こされる仕組みの解明や対策法を提案する研究を行っています。

3.遺伝子情報を活用した個別化薬物投与設計法の確立

移植医療では、免疫抑制薬に分類される薬物の使用は必須とされますが、患者さんの免疫抑制薬に対する感受性には大きな個人差が存在することが知られています。私たちは、一般的な臨床情報だけでなく遺伝子情報(DNA配列の違いや重要遺伝子産物の含量の違い)も加味した新しい個別化免疫抑制療法の確立を目指して臨床研究を中心に取り組んでいます。

4.薬物治療における変動要因の解明

抗がん薬などは過半数の患者さんに副作用が発現しますが、その重さや組み合わせは様々です。私たちは、薬物治療における効果・副作用の出方が患者さんによって様々であるということを念頭に、関連性を説明できる一定の条件を探し当てる研究に取り組んでいます。過去、ある薬物で治療された患者さんの診療情報を集めて統計解析し、将来的に注目すべき事項があると判断される場合には積極的に臨床へとフィードバックします。

生体に投与された薬物が、効果を発揮する細胞や肝臓や腎臓などの解毒装置に移行するためには、細胞膜が覆われている脂質二重膜(細胞膜)を通過することが必要です。細胞膜上に存在するタンパク質の中には物質の膜輸送を媒介するもの(輸送体、トランスポーター)が存在し、それぞれに機能的な特徴があることが解ってきました。私たちは、中でも肝臓、小腸、腎臓に存在する薬物トランスポーターが様々な薬物の膜輸送を媒介し、解毒過程や毒性発現、薬効発現に関わることを見出してきており、薬物治療それぞれにおける薬物トランスポーターの役割を明らかにする研究に取り組んでいます。

5.薬物の血中濃度測定とその評価に基づく、投与設計法の確立

Therapeutic Drug Monitoring(TDM)は、効果判定の困難な、有効治療域の狭い、個人差の大きな薬物について実際に患者さんの血中薬物濃度を測定し、次回以後の用量調節に役立てようとする診療業務の一環です。しかし、その必要性が理解されていながら保険適用とされていない薬物が少なくありません。私たちは、診療各科と協力し臨床上の必要性が高いと判断された薬物について同時の分析法を確立し、適正使用に役立てようとする研究に取り組んでいます。

6.日常業務の改善につながる研究

病院薬剤師の仕事の内容は、機械化、IT化、昨今の後発医薬品の導入促進の流れの中で大きく変化してきました。そこで、日常業務のさらなる効率化と医療安全を両立することを目的に、過去のデータを分析し、より効率的な作業過程の提案へと結びつけるための研究に取り組んでいます。